ビッグ・ファーマ―製薬会社の真実 マーシャ・エンジェル 栗原 千絵子 斉尾 武郎 篠原出版新社 2005-11 by G-Tools |
はじめに 薬は他のものとは違う
第一章 二千億ドルの巨像
第二章 新薬の創造
第三章 製薬業界は研究開発費に「本当は」どのくらいかけているのか?
第四章 どのくらい製薬業界は画期的新薬を作ってきたのか?
第五章 ものまね薬づくり―製薬業界の実態
第六章 新薬ってどのくらい効くんだろう?
第七章 押し売り―餌に、賄賂に、リベート
第八章 教育を名目としたマーケティングの偽装
第九章 研究を名目としたマーケティングの偽装
第十章 パテント・ゲーム―独占権の引き伸ばし
第十一章 支配力を買う―製薬業界はやりたい放題
第十二章 宴のあと
第十三章 製薬業界を救え―活きた金を使おう
あとがき
なんで読もうと思ったのか、ずいぶん前から読みたいなあと思っていた本だったので、きっかけは忘れてしまいました。うーん、何がきっかけだったんだろう・・・?
ともかく、「うわー・・・」と言いながら読み続けた本でした。日本とアメリカの医療システムの違い、ベンチャーが湧いては消えて行くアメリカと、ベンチャーが育たない日本、製薬会社が薬価を自由に決められるアメリカと、保険で値段が決まる日本や欧米諸国、特許切れ、独占権、臨床治験、MR、ジェネリック薬品、新薬開発・・・。色々と今まで製薬業界に対しての知識みたいなものが崩壊していく感じでした。ある程度は知っている部分もあるんですが、その非じゃない。
製薬産業は本当にそんなに研究開発費用がかかるのか?研究費用をかけて画期的新薬を生み出しているのか?生み出された新薬はどれくらいきくんだろうか?これらの疑問に、New England Journal of Medicineという、臨床系の医学雑誌の元編集長(なんと女性です!)が丁寧に答えています。確かに読みたい本だったけれど、それを書いているのがNew England Journal of Medicineの編集長、しかも女性ということに、この本を開いたときまずとても驚きました。文章も、元もいいんでしょうが訳がいいんでしょう。とても知的な文章で、惹きこまれていく感じです。
もちろん、これはアメリカでの話が主なので、日本にそのまま当てはめることはできないのですが、技術移転業界ではマジックワードでもある「バイ・ドール法」が、著者曰くきちんと当初の目的通り運用されておらず、製薬業界にいいように使われている、というのがなんかショックでしたねえ。NIH(国立衛生研究所)の助成で行われている研究で、研究者が特許をとり、それが実用化されるために製薬会社にライセンスされるのはいいけれど、製薬会社にとってはあまり懐の痛まない(本当かどうかはわからないけれど)額でライセンスされ、それを元に製薬会社が大儲けをしている・・・。その大儲けには「研究開発費用が嵩む」という名のもとに、製薬会社が決めた高い薬価でアメリカ国民に薬を買ってもらい、他国で回収できない費用をアメリカ国内で回収している・・・というストーリーは「えー!あの技術移転のお膝元のアメリカでこんな議論が起こるんだ!」という驚きがありました。
でも、アメリカのすごいところは、製薬業界がロビイングするのに対抗して、自治体なども対抗してくるところ。さすがアメリカだなあと思いました。特にそのあたりは最後の方に出てきます。
とりあえず、バイオ関係や製薬に関わる人と、技術移転に関わる人にはぜひ読んでもらいたい一冊です。