めごめも!

ひとりと1匹の生活記録。

医学研究のデザイン

どうもブラと乳がんから飛んでくる方が多いようなので
あの記事だけでは正直申し訳ないので
疫学研究の研究デザインについて自分なりにまとめてみました。
自分の勉強のまとめも兼ねています。


代表的な疫学研究のデザインには以下のようなものがあります。

  1. 横断研究(Cross-sectional study)
  2. 症例対照研究(Case-control study)
  3. 前向きコホート研究(Prospective cohort study)
  4. 無作為割り付け試験(RCT:Randamized control trial)


エビデンスレベルは1→4の順で低→高となります。
ついでに言えばコストも若干違いがありますが1→4の順でかかります。


で、解説。
といっても例がないとわかりにくいので、今回検証したいものは以下のとおり。

喫煙は肺がんのリスクになるのだろうか?


ま、明らかなものをたとえにする方がやりやすいでしょう。


まずお手軽簡単なのは、アンケート調査をすることですね。
これが1の横断研究に当たります。

  • 横断研究

ということで、とある地域に在住する20歳〜60歳の住民1万人程度に
疾患既往歴や栄養調査、生活習慣調査を含むアンケート用紙を配ります。
ターゲットにする地域の住民が1万人程度ならそのまま全員に配ればよいでしょう。
かなりの住民がいるなら、なんらかの方法でランダムサンプリングするべきですね。
そして回収したアンケートの結果から喫煙と肺がん既往との関連を解析します。


でも、これはエビデンスレベルとしてはかなり低いです。
なんせ時間が「アンケートを配った時」1点だけじゃないですか。
だから喫煙していない人で肺がんになった人が少なかったとしても
喫煙していないから肺がんになっていないのか
肺がんにならないような健康に気を使う集団だから喫煙していないのか
因果関係がわからないんですよね。

  • 症例対照研究

これは、肺がん症例100人とがん罹患者に年齢と性別をマッチさせた
肺がんではない対照群100人とか200人を連れてきます。
症例と対照は1:1のことが多いです。
時には1:2〜4くらいのこともあったりします。


まぁそれはさておき、症例対照研究の場合
やみくもに症例と対照を連れてくればいいわけではなく
大抵は年齢と性別を、時には居住地などもマッチさせます。
これは年齢などの条件をコントロールするためです。


で、この人たちに疾病の罹患と関連するような要因を過去にさかのぼって調査して
その要因(この場合喫煙)と疾病(この場合肺がん)についての関連を検討します。


おお!!これならリスクとか言えそうじゃん!!と思ったそこのあなた。
いや〜リスクとか使えないんですね。
なぜならこの研究、被験者集めて調査してる時点から
過去にさかのぼった情報を集めてるでしょ?
思い出しバイアスっていうのがありまして、
情報が正確性というものが結構微妙だったりするんですよね。
(まぁたばこ程度なら大した記憶違いもなさそうですけど)
つまり、肺がんの人は「僕(私)が肺がんになったのは煙草に違いない!!」
と煙草の喫煙状況について非常に詳しく覚えていることがあるんですね。
逆に対照の人は肺がんにはなっていないのですから
煙草の喫煙状況についてそれほど注意を払っていない可能性があるのです。


というわけで、この症例対照研究もエビデンスレベルとしてはそれなりに高いし
特にまれながんではかなり主要な研究デザインで
仮説の検証にはかなり頼もしい味方となってくれるのですが
次に言及するコホート研究やRCTの方がエビデンスレベルは高いのです。

さて、皆様は横断研究でアンケート調査をしたのを覚えていますか?
あれは「アンケート調査をした時点」での情報ですよね。
前向きコホート研究ではこの横断研究のアンケートをばらまいた人を
5年とか10年とか20年とか追跡します。
(だからここからかかるコストが一気にどかんとあがります)
追跡しているとそりゃもちろん、なくなってしまう人やら
肺がんになる人やら色々出てくるわけですよね。
で、アンケート調査の情報と肺がん罹患状況を解析して
喫煙による肺がんのリスクについて検討するわけです。
(ここから追跡するので「リスク」という言葉がはじめて使えます)


今の疫学研究では基本的にコホート研究が中心です。
どれだけ大きなコホートを持っているかで研究の質がまず決まります。
規模が大きくなくても、90%近くを解剖してるとか、脳解剖してるとか
それなりに「売り」となることがあれば、一流雑誌に掲載されることもあります。


ちなみに前向きコホート研究ですが、追跡期間が長くなるほど
調査情報が古くなり、途中でタバコをやめた人とか出てくるわけですよ。
そのあたりは前向きコホートの限界だったりするのですが
資金が潤沢にあれば、数年ごとにアンケート調査をやり直す・・・
ということもできたりします。

  • 無作為化割り付け試験(RCT)

で、最後にRCTです。
これは、絶対にタバコと肺がんの研究ではやられることはありませんが
(というか倫理的に許されないのでできない)
サプリの評価とか薬の評価ではこれに勝る研究はありません。


肺がんになってない人を連れてきてランダムにAとBの2群に割りつけます。
で、数か月なり数年なり、A群にはタバコを吸わせて、
B群には煙草に似せた物(そんなものあるのか?)を吸わせます。
基本的にA、Bどっちがどっちを吸っているかはわからないようにします。
追跡すれば肺がんにかかる人が出てくるわけですよ。
で、肺がんになった人がA群とB群どちらで多いか比較するわけですね。


RCTの場合、二重盲検化といって被験者さん自身が
どちらの群にいるかわからないようにするのと
肺がんの発生を診察するお医者さんも
どっちに患者さんが割りつけられているか知らない
ということがとっても重要になってきます。
だって、被験者さんが割りつけ群知ってたら
「たばこ吸ってない群だから肺がんにならないもーん」と
肺がんの兆候があっても診察受けないかもしれないし、逆に
「たばこ吸う群だから検診に頻繁に行かないと!!」と
やたらめったら肺がんが検出されてしまう可能性があるわけですね。
お医者さんに知らせないのは、
「あ、こいつ吸わせない群だから肺がんじゃない可能性の方が高いよね」
と見過ごしてしまう可能性があったりするので
知らせないで評価させるのが今では世界標準です。
(ま、色々あってそうはいかないものもあると思いますが)


というわけで、ともかく「バイアス(=かたより)」を取り除くのが
人間という集団を相手にするだけに非常に重要になってくるのです。
だって、実験動物みたいに遺伝的にコントロールしたり
成育環境コントロールすることって出来ないじゃないですか。
だからデザインの上で、コントロールするしかないんですよね。


横断研究ではデザインそのものがバイアスになる可能性がある、
症例対照ではアンケート調査の妥当性がバイアスになる可能性がある、
前向きコホート研究ではアンケート調査が連続していない
というのがバイアスになる可能性がある、
実際前向きコホートのレベルまででは「予防に効く」と言われていたβカロテンが
いざRCTしてみたら予防どころか喫煙者でがん発生のリスクとなってしまった!!
なーんてこともあるので皆様ご用心。


わー!!
なんかものすごく長くなって読みにくそうなエントリーなんですけど!!
随時追加・訂正していく予定です(あくまで予定だったりして・・・)。
やっぱり疫学って疫学やってない人に説明するのは難しいなぁ。
でも、かなり生活に根差した学問だからもう少し一般的に広がってほしい。
「疫学」でぐぐると私のエントリー何かよりわかりやすいページも出てくるので
ぜひそちらを参考にしてください。